愛しのホットケーキ

 「森永ホットホットホットケーキ」で始まるコマーシャルソングを覚えていられるだろうか。昭和40年代から50年代頃によく流れていたコマーシャルだ。大きなホットケーキ型のクッションの上で笑顔いっぱいで跳ね上がるお姉さん。その周りを囲む子供たち。(後半は田中星児さんに変ったと思う)

 昭和40年代、巷では高度成長期と言われていた。昔に比べて贅沢な時代になったと大人たちは話していた。確かに戦後まもなくの様に国民のほとんどがその日の食料に困るような時代ではなかった。まじめに働けば最低限の衣食住は満たされた。
 しかし昔語りをすれば、子どものおやつ事情は平成や令和に比べたらずっと貧しかった。その頃出始めたカルビーかっぱえびせんならまだいいほう。田舎から送られてきた売り物にならない小さなさつま芋や皮が傷だらけのみかん。サンドイッチを作った後のパンの耳を揚げて砂糖をまぶして作ったかりんとうモドキ。とにかく10時と3時に甘いものが口に入れば良かった。今時の子どもは3時のおやつにスーパーで売っているチョコレートやクッキーを食べている。しかし当時そんな高価なものを一つ作って工賃2銭の内職しているおかあちゃんたちが買ってくれる訳がない。あれはお中元など頂き物でしか食べられなかった。ケーキもクリスマスと誕生日、それもおばあちゃんが買ってくれるものだ。

 そこに登場したのがホットケーキミックスだ。家で熱々のホットケーキが食べられる。ケーキだぞ。甘いシロップをとろりとかけてフォークで切り分けて食べる。ふだんさつま芋やパンの耳ばかりのおやつに飽きつつある子供たちにとっては魅力的な食べ物だった。コマーシャルが流れるたびにおねだりをしていた。そして時々は買ってくれた。その時は出来上がるまで皆で覗き込んで見ていた気がする。ふっくらと膨れ上がる様子を見るのが楽しかった。

 ホットケーキは時々焼いてもらえた。でもお父さんのいる日曜日やいとこが遊びに来る日など少しばかり特別な日のおやつだった。今から思えば、ホットケーキミックスはさほど高くなくても、一緒に入れる卵が今の感覚よりずっと高かった。卵を入れる分、栄養があるが高価なお菓子になったのだろう。

 今はふだんのおやつとして食べるホットケーキ。でも昭和生まれは少しの贅沢感と甘美な思い出とともに食べる。