六甲山の紫陽花

 今年は季節が回ってくるのが早いのか、5月というのにもう紫陽花の花が咲いている。紫陽花といえば六甲山の森林公園の紫陽花が有名である。私も10年以上前に行ったことがある。
 阪急電車の駅に置いてある、PR冊子の紫陽花特集に載っていた写真に目を奪われた。あざやかな青色だった。そしてさわやか感じがした。今までの紫陽花のイメージとは違うな、と思った。今までのイメージとは、やっぱり梅雨の花。きれいだけど暗いイメージだ。お寺の境内に咲いているイメージだ。現に奈良の矢田寺などあじさい寺と呼ばれる寺も多い。

 
 しかし森林公園の紫陽花は違った。さわやかな感じがするのである。薄い青紫色が美しい。ぜひ見に行きたいと思った。そして実際に見に行った。その写真を見てすぐの日曜日だと思う。確か6月15日ぐらいだ。近所の庭先の紫陽花はもう咲き乱れていた。
 阪急電車に乗り込んだ。三ノ宮駅からはバスに乗り込んだ。紫陽花の時期に増発する臨時バスのようだった。私と同じ様に紫陽花を見に行く人ばかりだった。私はあの写真通りの紫陽花に会えると思うとわくわくした。
 六甲の山道を走り抜けて森林公園に着いた。けっこう人でにぎわっていた。さすが紫陽花の名所だ。でも、残念なことに紫陽花の見ごろには少し時期が早かった。六甲山は標高差で下に比べて気温が低い。大体4℃ぐらい違うらしい。紫陽花の花はほんの少しの花は青く色づいていたがほとんどはまだ白っぽかった。せっかく時間をかけて来たのに。私の周りでも、同じ冊子を見てやってきたとおぼしきアベックが、「見ごろもちゃんと書いておけよ」とぼやいていた。多分来ている人は同意見だったと思う。

 森林公園の紫陽花の見ごろは7月に入ってからかな。でも紫陽花を見たいと思うのは梅雨の入ったころである。梅雨はうっとおしい。でも梅雨だからこそ、紫陽花の美しさに出会えることがそんな感覚を味わいたいのかもしれない。
 梅雨の始めに梅が出始め梅仕事をする。梅酒や梅干ができるのを梅雨の間に眺めながら過ごす。梅干こそはつけないが梅雨の始めにラッキョウや梅酒を漬ける。そして梅雨の間に漬け上がるのを楽しみに待つ。実はうっとしい梅雨の時期をやり過ごすいい方法の一つかもしれない。

 森林公園の紫陽花は残念な結果になった。でもそれから何年か先であるが梅雨も明けた夏休み。ケーブルカーで六甲山に上がってすぐに見えた紫陽花の花は美しかった。自分の家の周りの紫陽花はもう終わっていたのに。何か別世界に来た気がして少しときめいた。