ワープロと英文タイプと

ワープロ教室に通い始めて、1か月ぐらいたった頃実家に帰った。父親にワープロ教室を習いに行っていることを告げると『要するに英文タイプの日本語版だな。お父さんも学生時代に英文タイプを習いに行ったことがある』と言い出した。
時は遡って昭和20年代後半、戦後のどさくさが少し収まりつつある頃だ。英文タイプの資格を持っていると就職に有利なので友達と習い行ったらしい。私の周りの親世代、いわゆる戦前生まれの高齢者の人が、存外パソコンを使いこなしている人が多い。今回のコロナの予防接種の予約もパソコンから予約した80代の高齢者の人もいる。ワープロが使えることが当たり前になった頃には、現役を引退しているのにできるのは、その様なわけなのだろう。(ちなみに父親は会議の際は手書きの青色コピーを使用していたとか。字が汚い人間には読まれるのが苦痛だったらしい)仕事でワープロもパソコンも使った経験がなくても英文タイプでキーボード自体には慣れている。タッチタイピングができるのだ。これは有利だ。同居している息子や娘に仕組みさえ教えてもらえば勤勉な戦前生まれだ。独学でマスターした人も多いだろう。就職活動でがんばったことが30年以上の時を経て、定年後の自分の生活に思わぬ形で役に立っている。『若い時の苦労は買ってもせよ』とは、このことか。まるでイソップ寓話のようだな。ちなみに父親は残念ながらタッチタイピングができない。父親の言い訳。人差し指ならともかく小指も同じ力で打つことは指が痛くて出来なかった。だいたいタイピングがは女性事務員がこなしており男性社員は必要なかった。
確かに電子タイプでなく昔ながらの英文タイプのキーボードを触らしてもらったことがあるが恐ろしく重いというか固いというかそんな感触だ。弱く打つと印字がかすれてくる。かすれては使い物にならない。タイピストに腱鞘炎になる人が多いといわれていたが長時間打つとそうなるだろう。そんな機械だった。ともかく若き日の父親は挫折した。そしてワープロの登場を前に英文タイプの技術を身に付けなかったことに少しばかり後悔しているようにも見えた。